弥生三月の幕開けは、子どもの文化研でした!
三月の声を聞きますが、全国を席巻している”コロちゃん”の影響で春がまだ遠い季節感です。多くのイベントが中止延期の中で、東京目白駅前の「子ども文化研究所」で開催の昭和の街頭紙芝居展示会と講演会の集いは、開催されることとなりました。
実は神奈川大学で開催予定だった2019年度第2回公開研究会「戦時下紙芝居と現代人形劇の交差点」の中止を受けて、講師の潟見英明氏(人形劇の図書館長)や高瀬あけみ先生(国策紙芝居研究者・紙芝居実演家)が会場を移して「子ども文化研究所」で潟見先生所蔵の500巻に及ぶ貴重な街頭紙芝居コレクションの一部を展示し講演と組み合わせて、その実物を手に取っての実演・上演の会を急遽開催されました。
昭和の記憶遺産、貴重な一点モノの「街頭紙芝居」の実物を手に取り、触れて演じられる機会はほとんど巡り遇えません。横浜市歴史博物館では横浜市民俗有形文化財に指定された街頭紙芝居のレプリカを製作し、それを公開し貸出し・上演の機会がありますが他の所蔵施設では困難です。特にフリーの一般利用者に実物に触れる機会は皆無でしょう。
なつかし亭は、ゲスト出演の森下昌毅さんや研究所の岡本りおさんにお願いして上演の機会をいただきました。演目は「正剣 飛龍」(第2巻)です。昭和15年(13年)と刻印されているこの紙芝居は、裏書が全くありませんでした。わずか1枚目の裏に”世阿弥”、”鞍馬天狗”と判読できる程度。そう読めたとすれば登場人物の名前でしょうか?その名前には思い当たります。”世阿弥”と名乗る人物は横浜ゆかりの文豪吉川英治原作「鳴門秘帖」の中心人物で甲賀忍者の総帥の名。”鞍馬天狗”はご存知、横浜出身の巨匠大佛次郎が描きだした幕末のヒーローです。両者とも横浜に縁のある名前、巡り合わせを痛感します。事実を確かめるすべはないのですが不思議な出会いを感じました。そしてそれ以外は文字通り白紙の取り組みです。
実は多くの紙芝居が中止となり上演の緊張から解放されていた私は、この現物を見るまでは全く上演意欲がありませんでした。そして展示会場には他に多くの裏書の整った紙芝居が公開されています。しかし・・この一巻を見て心が動きます。ニスで補強もされていない古い街頭紙芝居です。磨滅も進んでいます。まして裏書がなければこれから大切に保存されたとしても、ほとんど上演の機会はないでしょう。誰が演じることでしょうか。紙芝居が「せっかくだから上演してよ!」そうささやいている気がして、すべて裏書を創作して上演させていただきました。よかったです。ありがとうございます。高瀬あけみさんが写真を撮ってくださいました。鈴木孝子事務局長が笑顔を向けてくれました。「これくらいできれば、まあイイカ!」そう言って下るようでした。私にとって、忘れられない一日でした。これからも、そう評価いただけるように頑張ります。演じる時に着ていた袢纏には背中に「横浜」の文字が染め抜かれています。私の街頭紙芝居の恩人でもある故・鷲塚師匠が生きた街。街頭紙芝居を次世代に残して下さった街です。いつもは意識することのないこの二文字に今日は深い感慨がありました。