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 街頭紙芝居は昭和の風

人気ゆえに批判も沸騰

 紙芝居の第一次ブームは今から80年前の昭和初期。昭和7年の朝日新聞紙面には「(街頭紙芝居の)思想内容、演出の愚劣な事、聲色(こわいろ)の聞くにしのびない事」と厳しい声がおこり、販売しているお菓子についても「あめが不衛生に近い」とされて「あれは放置されてよいのか」と批判の大合唱が起こりました。
 子ども達に圧倒的に支持されとりこにした紙芝居は、その恐ろしいほどの魅力ゆえに紙芝居の関係者、演じ手達に変化を迫ることとなりました。

街頭の風雪に耐える紙芝居

 こうした厳しい批判を受けて街頭紙芝居の演じ手であるおじさん・おばさん達は組合を結成し、研修会を開催するなどして社会に受け入れられる良識を持った演目や演じ手へと自己変革を進めていくことになりました。
 とは言っても、街角や原っぱ、神社の境内で子ども達を集めて駄菓子を売り、シリーズや連続ものの紙芝居を演じるこれまでのスタイルが変化したわけではありません。カチ、カチ、カチ。拍子木の音が聞こえてくると遅れまいと必死で走り寄ってくる子ども達の笑顔は変わることはありませんでした。

画像の説明

日本独自の文化ー紙芝居

 街頭紙芝居は、多くの人の共同作業により演じられてきました。1枚づつ画を描く「版元」と「画描き」、それを買い集めて演じ手に配分する「おろし」、そしてそれを道具一式、販売用のお菓子等と一緒に仕入れて街で演じる「紙芝居師」の人達です。
 ですから当時の紙芝居は1作づつが、すべて手作り。次々と生み出される作品は次から次と多くの人の手を経て、全国で演じられてきたのです。

戦後の紙芝居ブーム

戦後復興の街に紙芝居

 戦災により焦土と化した全国津々浦々で街の復興が始まります。その昭和20年代時に第二次の紙芝居ブームが起こります。失業者や戦地からの復員兵達はその日その日の生活の糧を得るために街頭紙芝居を抱えて街頭に立ちました。

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都内ただ一人の紙芝居師永田為春師匠

 東京都江戸川区にお住まいの永田師匠は50年以上の街頭紙芝居の経験を持つ。平成22年11月に当時の思い出を語って下さった。
ー昭和20年頃の思い出は、宝くじの一等賞が賞金1000円、券が1枚10円だった。コロッケは5円でなんでも5円で買えたね。街頭紙芝居は江戸川区内で当時1000人位。都内では三千人位で全国では1万5千人程の同業者がいると聞いたよ。この辺でも路地裏の広場に子ども達は群がってきたねー横浜国際商科大学商学部の公開講座にて

テレビの普及で急速に消滅

 昭和30年代の各家庭へのテレビ普及に伴い街頭紙芝居は急速に姿を消していきました。「黄金バット」も「丹下左膳」も、いつでもどこでも手軽に視聴できるテレビにとって代わられていきました。またこの他に、子ども達の生活変化があると上記の永田師匠は語ります。
紙芝居を見ている子ども達も、「おじさん今何時?」とよく聞かれるようになった。きっと、学習塾や習い事の時間を気にしていると思う。拍子木を叩いても広場や公園に集まる子どもの数はめっきり減ってしまったよー(同上)

なぜ今求められる、街頭紙芝居

半径3メートルの世界のぬくもり

 80年前には子ども達への強い感化力・伝達力のゆえに排斥された紙芝居。そして、50年前に手軽な利便性で子どもや大人の娯楽を席巻したテレビに追われた紙芝居に今また強い期待と役割が期待されている。テレビに続く電磁媒体は仮想空間を大きく広げ豊かで夢あふれる世界を提供しているように見える。しかし、現実は子ども達からもそして大人達からも双方向の人と人が向き合う楽しさを奪ってしまったように見える。人と人がつながる。世代と世代がつながる楽しさやチャンスをもう一度見直したい。昭和の時代を彩った懐かしい紙芝居をもう一度楽しみたい。それはきっと貧しくとも心は豊かだった時代の智慧を学ぶことにつながり街や地域の元気につながることに違いない。
神社境内での紙芝居

伝統を今に生かす工夫と手法

 時代は超高齢社会。平均余命も男79.29歳。女86.05歳。高齢化率も上昇し特に、高齢者の独居世帯の急上昇が社会的脅威です。2030年には高齢者世帯が約4割(37.7%)を占める超高齢独居社会に突入。人口減少の少子化社会であっても地域は、人と人がつながり、世代がつながることで地域の元気を維持していくことが不可欠です。対面して強いメッセージ力を持つ街頭紙芝居の魅力を活かした紙芝居をそのための有効なツールとして、地域でつながる楽しさ実感していきたいものです。

街頭紙芝居から教育紙芝居へ

 戦後のブームの後、たちまち姿を消した街頭紙芝居ですが、幼稚園・保育園、小学校や地域では印刷で量産された教育紙芝居が人気を博しています。民話や童話、面白話や怪談、漫画の主人公が活躍する紙芝居や環境教育・反戦をテーマとした紙芝居までが大手出版社から出版されて子ども達を引き付けています。

 魅力あふれる街頭風紙芝居

 街頭紙芝居の手法を紙芝居の演じ方に取り入れた街頭風の紙芝居。それが「街頭風紙芝居」です。筋書きや主なセリフやは演じ手が頭に入れて、なるべく紙芝居の裏書き(絵の裏面に書かれている地の文やセリフ)を見ないで直接観客の顔、眼を見つめて語ります。ですから立ち位置は紙芝居舞台の横か少し前。直接“半径3メートルのお客様”にメッセージとして紙芝居の実演を行います。ですから声色や声の強弱、間の取り方も工夫して明るく楽しく、やさしく強く、紙芝居実演を行います。
「たべられたやまんば」の実演

いかがですか、紙芝居。あなたの声をお聞かせ下さい!


  • 懐かしかったです。なつかし亭さん頑張って。 -- 高澤 2011-06-02 (木) 14:28:50
  • 街頭紙芝居の思い出は、子どもの頃の夕焼けの記憶に似ています。なつかしい。胸熱くどきどきしたあの頃にもどることは出来ないけれど、今それを紙芝居で伝える方法を知りました。ありがとうございます。 -- 岸本 2011-06-02 (木) 14:26:01