紙芝居は演じるためにある

紙芝居を選んでみよう

 紙芝居を選ぶことは好みのファッションを選ぶのに似ている。時代の流れに消えてしまった街頭紙芝居の演目は入手が難しいとしても、現在教育紙芝居の出版点数は各出版社とも多数に上る。民話形式や童話、昔話や外国の名作に題材を取ったものなど好みの紙芝居との出会いは本当に楽しいものだ。原作と絵描きの共同作業に加えて演じ手の思いが素直に表現できる紙芝居こそがその人にとって大切な紙芝居になる。教育紙芝居の宝庫は図書館。横浜市内ではすべての図書館の児童コーナーに紙芝居が1千セット前後展示されている。その中で好みの紙芝居を手に入れたら、”さあ街へ出よう!”

街頭紙芝居の名作アラカルト

 紙芝居を実演していていつも高齢者に声をかけられる。「昔はよく見たよ」「黄金バットがなつかしいね」。でも、黄金バットはどんな紙芝居でした?と聞くと記憶にある人は少ない。何か黄金バット、というイメージが半世紀を超えてもなお悠然と歩き回っている。この紙芝居の黄金バットは、実は2人の絵描きによって世に出た。一人は永松健夫さん、もう一人は加太こうじさんである。加太さんの黄金バットは大空社から「ナゾ―編」として復刻出版されている。これには読み方見本とも言うべきテープも添えられており、その吹き込みは江戸川区の紙芝居師永田為春師匠が担当している。この他にも「丹下左膳第5巻宝壺の卷」もセットになっている。


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 永田為春師匠の名調子

 永田師匠の十八番で私が大好きなのは、「変幻蛇童丸」と「ジャングルボーイ177巻」。時代ものと冒険活劇とジャンルは分かれるもののどちらも何度観ても、聞いても引き込まれる。「蛇童丸」は悪役の般若面との対決。“小僧、なかなかやるな~。俺のクサリ鎌を受けてみるか!”“小僧!覚悟はよいか!”。“その時、蛇童丸の必殺の剣は踊ったッ!!”
 もう一つの、「ジャングルボーイ」。これには黄金バットの敵役の銀バットが登場する。けばけばしい縞のマントの銀バットは、憎々しげにヒーロー黄金バットに迫るのだ。“飛ぶぞ飛ぶぞ鉄鎖、お前の首に巻きつくぞ!”“フフフッ、黄金棒で受け止めたか、黄金バット!”“この鉄鎖は黄金棒の力を吸い取るぞッ!”しかし、落ち着き払い銀バットの悪行を諭す黄金バット。“たとえ黄金棒の力が萎えたと言えど、汝ごときに敗れはせぬぞ!”“これより汝も心を入れ替えて、世のため人のため罪滅ぼしをするがよいぞ!”永田師匠の声と身振りはいつも私を半世紀前の自分に引き戻す。


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その他の街頭紙芝居の名作

 全国を貸元から紙芝居師へと流通していく紙芝居は、文字通り人の手から手へと手渡しされて、磨滅し消耗して廃棄されていく。そのため名作と言われるものほど今に残る作品はまれである。そのような街頭紙芝居を保管し展示しているところは関東地方では横浜歴史博物館がある。同館では平成22年度夏の大型企画展で「大紙芝居展」を開催した。全国ではただ1カ所と言われる新潟県旧卷市民俗資料館から「のぞきからくり」を屋台ごと借用して本場の実演を横浜で行い関係者を驚かせた。担当学芸員のH・Kさんは驚異的な情熱で市の指定文化財貸し出しをOKしてもらった。新潟市の関係者は、「もう二度と県外に出すことはありません」ときっぱり。このKさんは、人柄も知識も本当に超特級の人物。こうした方の活躍で、私達庶民の生活文化が時代を超えて行く。

市内の元紙芝居師の方が保存する紙芝居

 この大イベントに登場したのは市内の元紙芝居師の方から提供された街頭紙芝居。「まぼろし探偵長」「少年ジエットマン」などの冒険もの、「大怪獣ダイラ」などの怪奇もの、「愛染草」などの母ものや当時のクイズなどがある。提供者の鷲塚隆さんは会期中に同館で「復活街頭紙芝居!」を実演。また最終日の番外編の街頭紙芝居特別上演は多くの新聞で報道された。街頭紙芝居の作品には「黄金バット」や「ジャングルボーイ」、また横浜生まれの文豪吉川英治の小説を題材にしたと思われる「鳴門秘帖」などもあると聞くが、本格的な収集や保存・展示はこれからのお楽しみ。
(* なつかし亭も、所有者のご承認をいただき研修用に作成した一部紙芝居を非営利活動の中で、ご紹介をすることがあります)


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