自分が楽しい、みんなも楽しい

紙芝居は半径3メートルのイベント

 紙芝居は半径3メートルのお客様を対象としたイベントです。もちろんそれよりも大人数の場合もありますし、数名の方と対面して実演する紙芝居の経験もあります。50人以上の場合には、小型の携帯アンプと耳かけマイクを使って実演をいたします。昭和の元祖街頭紙芝居時代には当然そのような文明の利器はありませんのですべて、紙芝居師の地声が頼りでした。
しかし、簡単な拡声装置を使うことで声色の使い方や声の強弱など自分の声をセーブしながら楽に実演することができます。楽にできれば、その分余裕が生まれます。実演に余裕が生まれればお客様の観察もできるし、物語を自分で楽しむことが可能になるのです。

観客がいてこその紙芝居

 紙芝居は半径3メートルのイベント、と言いました。でも見て下さる方が
本当に一人二人の時もあるのです。私の経験したケースでは、著名な外食チェーン店が介護に進出して買収した有料老人ホームからの依頼でした。
高い保証金が出して入居される高齢者の方に受け入れられるだろうかと、思いつつ当日の演目は「黄金バット(ナゾ―編)」「丹下左膳(第5巻・宝壺の卷)」いずれも大空社の復刻版を使用しました。
 観客は、男性3人、女性3人の計6人。施設のゲストルームで実演したのですが、読み進むにつれて男性は1人、2人と部屋から出て行ってしまいました。バカバカしい!と思われたのかもしれません。演じ手の私は、このまま残りの3人が帰ってしまったらどうしようか?と考えていました。見る人のいない、観客不在の紙芝居は、単なる「独り言」です。あ~困った!と思いきや、女性の3人は帰らずに最後まで見てくれました。「面白かったよ」「アリガトウね」

寝てもいいから、帰らないで!

 女性陣にはいつも助けられます。功なり、名を遂げた男性軍にとっては紙芝居は「バカバカしい」と思われたのかもしれません。でも女性は、前向きに楽しんで下さいました。まさに、女性の素晴らしさです。
 それ以降、私は、”危険な雰囲気”を感じた時には、「紙芝居の最大の敵は、途中でお客が帰ること。だから寝ててもよいから帰らないで」と言うことにしています。そしてこう付け加えます。「そう言ったら、こないだイビキかいて寝た人がいてね。その人が帰る時、“今度、マクラ用意しといて”って。ヒドイ話だね」。そういうと、帰る人も寝る人もいないのです。

看護師の先生方 紙芝居上演

台湾巡業の感激

 平成22年3月14日(日)~16日(火)台湾を訪問して、台北市陽明山の高齢者施設「至善老人安養護中心」の認知高齢者の方々に紙芝居を披露しました。
 台湾は高齢化率約10%余の若い国で介護保険制度を含めた高齢者対策はこれからスタート。そのため認知症施設等も一部の社会事業に熱心な医療法人や福祉関係者の運営に委ねられています。この「至善中心」も台北市で著名な病院関係者の運営で、台湾現地の友人の宋先生の紹介によるものです。

日本語で紙芝居を上演

 看護師のみなさんと懇談の後、日本語で「ごあいさつできた」「たべられたやまんば」を上演しました。「たべられたやまんば」については通訳を引き受けてくれた宋先生が「ひと言コメント」ならぬ「ひと言通訳」で説明の補足をして下さいました。
 みなさんは、よーく見て下さいました。変身した“やまんば”には素直に驚き、また、小僧が追跡を受けながら逃げるクライマックスでは緊張し、そして最後の和尚さまの機転には安堵の表情。高橋五山賞の二俣英五郎先生の名作の魅力が、言葉の壁を越えたと実感しました。本当に楽しかった。ありがとうございます。

終了後に感激の交流

 読み終えると、数名の高齢者の方が私を取り巻き、日本語で「60年ぶりで紙芝居を見ました」「なつかしい」「おもしろかった」と口々にお話し下さいます。また女性の方はお礼に日本の唄を歌います、と。「桃太郎さん、桃太郎さん・・」と歌って下さいました。「きっと、日本語が思い出の戸棚からほとばしり出たのだと思います。私にとっても一生忘れられない感動の思い出となりました。

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初めての海外旅行、初めての台湾旅行

 実は、これまで私は海外に出向いた事はなく当然、台湾も初めての経験で、桃園国際空港から片言の英語でなんとか台鉄近隣のホテルまで。宋先生や友人の方々が向う見ずな、日本からの紙芝居屋さんをさまざまにサポートして下さいました。本当にありがとうございます。

今年の秋に台湾巡業を予定

 平成23年3月下旬に予定した台湾巡業は東日本大震災で急遽、延期となりました。私も過酷な状況に打たれてしまいました。完全に準備した航空券やホテル。そして宋先生の日程、「至善中心」にお願いしてきた準備もすべてお詫びして延期させていただきました。本当に申し訳ありませんでした。あの惨状を見て、やはり日本にいて何かお役に立ちたいと思った結論でした。
 台湾の方々は、みなさんが「元気になってまた来てください!」「日本のみなさんによろしく」と。何とやさしく、あたたかく、魅力的な方々だろうと大感激です。特に、宋先生からは「気仙沼の友人の〇〇さんと連絡がつかない」「安否を確かめて!」などメールをいただき、こちらも電話で八方連絡を取りました。やっと連絡がついたのは1週間後。「今日やっと被災した会社に立ち入りました」「無事なので台湾のみなさんによろしく!」と、〇〇さん。

 年内に必ずまた紙芝居をさせていただきます。台湾で日本人の方の心の支えになっている「台湾通信」の早田先生ともぜひお会いしたいと心待ちにしています。

 

 


いかがですか、紙芝居。あなたの声をお聞かせ下さい!


  • 半径3メートルのコミュニケーション。大道芸紙芝居の神髄を表した名言。権威とは無関係な子どもたちが相手だけれど、子どもの心を捉えないでは生き残れない、子どもたちとの理屈抜きの「たたかい」の世界。そんな楽しいけれど厳しい紙芝居の魅力を伝えようとしている岸本なつかし亭に喝采。3メートルの小さな世界に大きな夢と可能性が凝縮していると思います。気張らずリラックスした岸本さんの姿に大いなるエールを送ります。 -- 寿老人 2011-06-28 (火) 07:35:37