平成28年11月30日
ひやうひやうと瓢(ふくべ)の風も九月哉(かな) 一 茶
九月に入っても厳しい残暑がこたえます。思わず、”やけのヤンパチ、日焼けのナスビ。色はうまそうで食いつきたいが、アタシャ入れ歯で歯が立たぬ!”。恨めしい天気に、”寅さん流の啖呵”をきりたいところです。でも、やがて楓は紅葉し、まもなく富士の山には”初冠雪”の便りが聞こえてきます。朝夕の風にはひっそり秋の気配が感じられます。
社会通念間尺に合わぬ世の残暑 鈴木 賢次
この句には本当に同感!でも 気持ちを立て替えて季節の変化を楽しみたいです。歳を重ね日々の身過ぎ世過ぎを送りながら、ささやかでも秋のみのりに期待をふくらませています。自身の流した汗と足元の歩みを見直しながら・・・。
口髭(くちひげ)のひとすじ白し今朝の秋 森 鴎外
わが眉に白毛ぞ見ゆれ今朝の秋 沼 夜 濤
指なめて拾う丸薬秋の昼 土肥 幸弘
舌噛むは何の疲れか秋の暮 鈴木 太郎
季節の秋は、人生の秋である”老境”にたとえられます。年輪と共に重ねた経験と知識、それは大げさに言えば”人類の英知”につながる社会資源でもあります。しかし、体力・知力とりわけ短期記憶の減衰はたとえようもありません。白くなった髪を嘆き、体調管理のための服薬は日課となりそれでも夕暮れになると何もしていないのに疲労感を覚えます。
でも、もう一度人生の”スイッチ”を入れましょう!入れ直しましょう!そうすると、不思議なことに秋の風が背中を押してくれます。今の時代は老若男女、すべてが閉塞感と不安感に溢れているかもしれません。嘆き、悲しみそして不安がいっぱいだからこそ、”心のスイッチ”を入れましょう。新鮮な出会い、身近な方も含めてきっと新しい出会いの再発見があるような気がします。
はたとわが妻とゆき逢う秋の暮 加藤 楸邨
山々の風吹き来たり今朝の秋 津田 露木
わが魂を高嶺に放つ今朝の秋 小山 徳夫
我が中に道ありてゆく秋の暮 野見山 朱鳥
をりとりて はらりとおもき すすきかな 飯田 蛇笏