平成26年9月30日
夏の“こころの歌”
幕末の歌人橘曙覧(たちばなのあけみ)は福井県に生まれ2歳で母と死別し15歳で父を失いました。貧乏に苦しみながらも日常の暮らしのささやかな喜びを感動的な歌に詠みあげた歌人です。その死後、歌集「独楽吟」は明治になって正岡子規に絶賛されました。私は人生の節目や苦しみの時に励まされ、心安らぐいくつかの詩歌に出会いましたが橘曙覧の「たのしみは」で始まるこの歌もその一つです。歌を口ずさむと、いつもあたたかい風に包まれます。たとえ人生に悲しみや苦難がおそっても、それを超える”勇気と感謝”が湧いてきます。この厳しい夏の炎天を超えて秋の実りを思いつつ、ご一緒に!
独楽吟
たのしみは 朝おきいでて昨日まで
無かりし花の咲ける見る時
たのしみは 妻子(めこ)むつまじくうちつどい
頭(かしら)ならべて物をくふ時
たのしみは あき米櫃(こめびつ)に米いでき
今一月はよしというとき
たのしみは まれに魚烹(うおに)て児等(こら)皆(みな)が
うましうましといひて食う時
たのしみは 三人(みたり)の児(こ)どもすくすくと
大きくなれる姿みる時
(橘 曙覧)