令和5年7月9日

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ひとひらが 彗星となる 桜かな     高岡 慧

「いい声してますね!」と声をかけられることがある。最近ではコロナ禍のトンネルに明かりが見え始めた今年の節分の頃。横浜の施設でのことだった。家族に言うと「爺(ジジイ)が自賛ネ!(自画自賛?)」と言われそうで黙っていたが嬉しかった。私はこれまで人生であこがれた声の三人がいた。そのうち一人は、ご存じ”虎三節”の浪曲師「二代目広沢虎三」。それは別格として二人目は戦後落語界の救世主「古今亭志ん朝」師匠でこれも別格。三人目は横浜の選挙区を地盤に政治活動を続け、衆議院予算委員会の野党の花形の論客であった「大出俊」だ。三人に共通するのは声のテンポとリズム、そしてメロディアスで不思議な広がりを持つ強いメッセージだった。


昭和史を 引きずっている 桜かな     五十嵐 迪子


子は母に 今日を語りぬ 夕ざくら      岩松 草泊


一瞬の 生命いとほし 桜咲く       碓氷 すすみ


カタカナで 何と言うたか 花が咲き     横村 華乱


大道芸人 花の隅田に 集(つど)ひをり    茂又 八重子 


”人の印象の4割は声”という論説やボイストレーニングの検証研究がある。特に三人目の大出さんは、身近に接しただけに声と凄みのある個性、その人間的な魅力とともに今も忘れ難い印象を残した。街頭演説や予算委員会の丁々発止のやり取りは、強大な国家権力を相手に孤軍奮闘して大向こうをうならせた。”縦じまスーツの男!”、”国会止め男の政治劇場”と皮肉られながらそのやり取りは、浪花節を地で行く勧善懲悪の世界に見えた。でも実際大出さんの魅力は気さくな人柄が溢れる雑談や政治談議だった。落語の”地噺(じばなし)”のような政局解説は手に汗を握る楽しさだった。


この春も 一期一会の 山桜          小林 孝子


胸さわぐ 夢を見た日の 桜かな        谷川 八穂子


さくらさくら 彼の世の夫を 連れ出さむ    菅原 けい
 
 

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彼の世へと 帰る花道 花月夜         佐渡 洋子

「”声”の国民国家・日本](NHKブックス)の著者・兵藤裕己は近代国家日本の改革を推進した原動力の一つに浪花節芸人の物語力、語る力(声)に言及している。前時代の封建的秩序から天皇制の精神的な柱となった「義理と人情」。その相関を分析して政治と芸能の紐帯・橋渡しを解明している。ならばこそ街頭紙芝居の鷲塚師匠をはじめ多くの無名の先達たちは全国津々浦々で子ども達ばかりか大人の心も、ギュウッとつかみ時代を越えて演じられたのかもしれないのだ。広沢虎三は1964年12月に逝去して、古今亭志ん朝師匠と大出俊の二人は22年前の秋に相次いで鬼籍に入り今年は二人とも23回忌を迎える。さまざまなこと 思い出す 桜かな  芭蕉

           


待ち合わせ 菜の花畑で いいですか       薬師寺 渉


まっすぐに 好きな人来る 花菜畑        石川 美果


人の世に 転びころべり 山笑う         石松 佳恵


好きな靴 しまいて 春を惜しみけり       西川 美津子


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