令和4年10月5日

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おおけなく 憂き世の民に おおうかな わが立つ杣(そま)に すみぞめの袖(前大僧正慈円)


新年に”百人一首”をすると必ず取りたい札があった。一つは“ももしきや”で始まる順徳院の歌。祖父の愛用していた”ラクダの股引(モモヒキ)”が連想されて子ども心がくすぐられた。少し年を重ねて上記の歌にも心ひかれるようになった。「力も学問も足りないお恥ずかしい自分だが、苦しむ世の人々を自分の粗末な僧衣でくるんであげたいのだ。山深いこの修行の場から娑婆の世界に向かっていざ立たん!」。”青年は荒野を目指す!”そんなイメージが重なっていた。それは今でも自身の心の中に小さな灯火をもやし続けている。


六月を 奇麗な風の 吹くことよ      正岡 子規


たちまちに 富士吞み込みし 雲の峰    須藤 常央


紫陽花の いろ移ろひし あしたかな    猪俣 洋子


あじさいや あしたのための 靴みがく   福留 ムツ


世を隔て 人を隔てて 梅雨に入る     高野 素十   


そのささやかな夢を6年前から果たすことが出来た。1週間に3回ほど不定期だが、とある法人でさまざまな人生の悩みや苦労する方々の声を聴き、思いを通わせる活動だ。人生相談のような気休めや息抜きではなく、またおしゃべりや雑談でもない不思議なご奉仕。その日程の合間の紙芝居だ。ひっきょう、以前に比べると紙芝居の回数は少なくなり”全国北から南へ”というのも笑い話になっている。「オイ!この頃、全国北から南はどうした!」「はい!北は北千住、南は南千住と駆け回っています!」「ははは、駅ひと駅じゃねか!」。それは冗談ですが、足立区内の大衆浴場巡りの紙芝居は、続けています。


美しき国 遠のく気配 梅雨に入る        丸木 美津子


梅雨寒の 濡れし地下足袋 けふもはく      村井 一露


傘一本 重荷の余生 梅雨に入る         守田 椰子夫
 
 


吉右衛門 大見得切って 梅雨に入る       松原 豊


入梅や 蟹かけ歩く 大座敷           一茶

それでも梅雨の晴れ間の、久しぶりの街頭紙芝居はいい。高齢のご夫婦、年を重ねた旧友の同期会、障害のある家族のリハビリや外出。街の喧騒一つ一つにかけがえのない大切なドラマが見える。丁度電車の車窓から流れていく景色を眺めているようで心がときめく。紙芝居は見られるモノだけど、紙芝居オジサンにはいろいろなモノがみい~んな見えるよ。だから楽しい!梅雨が明ければもうすぐ夏だ。


野菜篭 いっぱいの夏 届きけり        安藤 清美


君五歳 うらもおもても 空も夏        中原 幸子


つまずいて ころんで 夏がきておりぬ     笠原 とも子


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