なつかし亭を見る

中区大通り公園の技能文化会館は横浜の技能職の殿堂。30回目の“青年技能者の夕べ”では落語と講談の手作りの寄席が開催。“開口一番”なつかし亭の昔語りと紙芝居でスタートしました。

技能文化会館は開館25年。技能職団体の交流機能と労働・雇用の情報センター、各種講座や会議室として利用されています。


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 平成24年3月4日午後1時。会場の7階和室では青年技能者の手作りの“高座”作りが始まりました。舞台用木枠を積み上げて毛氈を敷いて座布団やめくり台も準備。講談用の“釈台”はこの日のために青年部の建築大工の川上さんが手作り。

 川上さんの父君はかつて技能職団体の会長や訓練校の校長先生をつとめた名工、故川上三寶先生。なつかし亭は大変お世話になりました。奥様もお元気でしょうか?そのお人柄や素晴らしい人格に私も感銘を受けた一人です。三寶先生に見ていただくつもりで、紙芝居舞台を“釈台”の上に置かせていただきました。


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 前座役の私。実は25年前は横浜市の職員でこの会館建設の担当者でありました。この日40人程のお客様を前に25年以上前の1階技能展示室“匠プラザ”の展示道具収集の苦労談や開館記念講演会の“桂歌丸師匠”の思い出話をご披露。その後に街頭紙芝居を上演しました。プロの芸人の方の前に素人の前座など本来はあり得ないことですがお許しいただき本当に感謝です。良い経験になりました。

 “匠プラザ”の道具収集は当時神奈川大常民文化研究所の谷沢明先生の存在なくしては語ることができません。そして石工の田辺恒次郎さんや建築大工の小山健二さん、木型の中村貞夫さん等など同時代を生きるキラ星のような職人衆達がいてこその収集事業でした。

 担当者だった私は記憶をたどり始めると胸がいっぱいになります。技能職の“道具”や“昔語り”の聞き取りは時間的制約で不十分だったかもしれません。しかし時代の共有財産、市民の文化資源としていつの日にか、また技能職の存在とともに光り輝く日が来ることを願ってやみません。私もその日をひそやかに願い、見守っていきます。

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 出演は三遊亭鳳志師匠の落語2席と一龍斎貞寿先生の講談1席。さすがにプロの話芸に楽しく聞き惚れました。鳳志師匠は名人の誉れ高い大看板の故六代目円生師匠に連なる一門。「試し酒」は古典落語の脈打つ生命力を感じるような一席。また最初の新作風の落語も折り目正しい伝統料理に西洋スパイスを効かせたような楽しさ。ごちそう様でした!

 一龍斎貞寿先生もさすがプロの芸で「左甚五郎」。普通はテレビで拝見する機会がある位の講談をライブで拝見して、本当にしびれました。明るく元気な芸風に若い女性の魅力もたっぷり。ありがとうございました!

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 皆さんとの打ち上げも本当に楽しい時間でした。加納希夫青年部長、元青年部長の小原一格さん。お招きいただきありがとうございました。技連協の小泉会長、塩田副会長、経済局西野課長他の皆様、心からお礼申し上げます。
 そして三遊亭鳳志師匠と一龍斎貞寿先生のお二人の写真。「お雛様みたい!」とお客様の声。(エッ、しまい忘れたお雛様? ウソ!)

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一流の技能職の醸し出す空気は、落語や講談、舞踊など芸能を極めた方々が漂わす雰囲気に似ています。「一念を込める」というこだわりの匂いでしょうか。友人の中学同級生に正藤流家元『正藤勘扇(まさふじかせん)』がいます。全国民謡民舞大会で日本一の創作舞踊家元ですが、彼女の『ひとり語り(注1)』にも共通する言葉があります。「いつも踊りを忘れない。誇張ではなく、寝ても覚めても、頭の中の踊りの目は起きている」「だから伝統の型に加えて新しい踊りも浮かんでくる」「(動いている時代に)負けずに進化するために、自分も今、変わらなければいけない」と。一流の人とは精進と努力を忘れない人のことなのです。

 注1 「花ぞろい正藤流」~創作舞踊家元ひとり語り~ 著者 岸本茂樹(聞き書き)         平成21年1月発行 東京新聞出版局 定価952円+税 より抜粋