平成30年3月6日
いまの雨が落としたもみじ 踏んでいく 風 天
誰かに会いたくなるような秋の夕暮が、いつの間にか冬を運んできます。冬と言えば”冷たさ”、”暗さ”、”貧しさ”という暗いイメージの連鎖でしょうか。でも、足を一歩踏み出し、落ち葉を踏みしめた時には闇を切り開き、温かく、やさしい春への一歩に変わります。きりりと輝く光明がしっかりと、足元を照らし音を立てて時代が動きます。十二月は、新しい年への出発の月です。
肌寒く母かえらぬ ろ路に立つ 風 天
納豆を食パンで くう二DK 風 天
貸ぶとん運ぶ 踊り子悲しい 風 天
新しい年を迎える”新春”。その新春映画の決定版のひとつは渥美清さんの〝寅さんシリーズ”でした。主役の渥美さんは”俳号風天”を名乗り家族や社会の底辺を生きる人への愛情あふれる句を残しています。場末の演芸場の楽屋で寝泊まりする”踊り子”もその一人。「ふとん」や「納豆」も俳句の季語では「冬」を表します。
かりそめの世をまっとうに 寒椿 渡辺 光子
人の数だけ晩年がある 冬の梅 角 光雄
ほこほこと 落葉が土になりしかな 高浜 虚子
落葉ふむ 分れし道のまた会へり 高野 素十
子どもの頃、町の古老が「若いうちは苦労は買ってでもせい!」と。若い時代に限らず年を重ねても不安や、悲しみ、不条理への怒りや涙があります。でもその涙が、受け止め方、切り替え方によって大きな力に助けられ熟成し、時の恩寵により馥郁とした美酒に変えてくれると、信じています。新しい年がめぐります。その中で、”半径3メートル”の紙芝居の宇宙の中で、必ずお役にたちたいと願います。
そと孫の久しき声や 冬ぬくし 上村 のぼる
「ただいま」と言えば 夫居て冬ぬくし 佐藤 れいこ
いつもの席に その人在す冬ぬくし 和久井 雅子