平成29年3月2日
かたつぶり そろそろ登れ 富士の山 一 茶
季節が秋から冬に移ります。でも冬は秋のつづきです。春は冬のつづきです。切れることなく時が流れます。やってくる冬の寒さにたじろぎ、おののく必要はありません。”人生の時計”と同じです。冬にも華があり、生命はひそやかに躍動しています。”かたつぶり”よりゆっくりでも、山を登り続けます。
わが胸に すむ人ひとり 冬の梅 久保田 万太郎
あでやかな桜に比べると梅の花は清楚でつつしみ深い花です。まして冬に咲く梅はけなげです。ひたむきな花の心が深く胸にしみます。その梅のような人が一人でも心にいてくれるだけで、冬の豪雪にも狂瀾怒涛の波風にも負けない心が湧き上がります。その人は、その声を思い出すだけで心が熱くなり涙が出そうになる方です。
遠くまで行(ゆ)く秋風とすこし行く 矢島 渚男
子にみやげなき秋の夜の肩ぐるま 能村 登四郎
今を生きて老いと思わずと去年今年 金子 兜太
冬の楽しみは”小春びより”です。冬に向かう厳しさを感じるからこそ”春の匂い”、温かさ、優しさがうれしいです。それは本番の春よりも春らしく、春よりもあたたかい。だからこそ足元を踏み違えずに、与えられる時間の大切さが実感できる自分でありたい。
大根をさげて富士山見てゐたり 新田 次郎
中年の華やぐごとく息白し 原 裕
一人行き二人畔(あぜ)行く小春かな 水原 秋桜子
この山に道あればゆく小春かな 高木 晴子