平成26年7月13日

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芽吹きの春は、出発の季節です。”入学”、“進学”、”卒業”はもちろん、”誕生”、”成長”そして”嫁ぐ”人間の営みすべてが春の季節にピッタリです。詩人の吉野弘は、そんな人生のふしぶしをやさしく、あたたかい言葉で包んで私たちに贈ってくれます。この「祝婚歌」もそのひとつ。たとえ人生に悲しみや苦難がおそっても、それを超克する”春のエネルギー”があふれてきます。



祝婚歌

 二人が睦まじくいるためには
 愚かでいるほうがいい
 立派すぎないほうがいい
 立派すぎることは
 長持ちしないことだと気付いているほうがいい
 完璧をめざさないほうがいい
 完璧なんて不自然なことだと
 うそぶいているほうがいい

 二人のうちどちらかが
 ふざけているほうがいい
 ずっこけているほうがいい
 互いに非難することがあっても
 非難できる資格が自分にあったかどうか
 あとで
 疑わしくなるほうがいい
 正しいことを言うときは
 少しひかえめにするほうがいい
 正しいことを言うときは
 相手を傷つけやすいものだと
 気付いているほうがいい

 立派でありたいとか
 正しくありたいとかいう
 無理な緊張には
 色目を使わず
 ゆったり ゆたかに
 光を浴びているほうがいい

 健康で 風に吹かれながら
 生きていることのなつかしさに
 ふと 胸が熱くなる
 そんな日があってもいい
 そして
 なぜ胸が熱くなるのか
 黙っていても
 二人にはわかるのであってほしい

           (吉野 弘)



 

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