令和4年3月23日

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生涯の 居を得て熱き 根深汁   大須賀 浅芳


”根深汁(ねぶかじる)はネギを具材にした味噌汁。冬の夜にひっそりと、つつましい夕食の膳に供されるとネギの風味と熱い汁が五臓にしみわたる。どこにあっても、たとえ募る焦りやいら立ちに取り巻かれていても、命を得て日々を送れることの幸せが胸の奥に溢れてくる。根深汁は、しぼんだ心が起き上がり前に踏み出す不思議な力を秘めている。


おでん鍋 まず大根に 箸を差し       山根 繁


湯豆腐や つれ添うて ほぼ五十年      岩木 躑躅


寄せ鍋に 夜汽車の友の 座を残す      野尻 正子


大根を 後生大事に 園児バス        吉松 舞九


寒梅の 一輪咲いて 香り立つ        高木 昌子


大根を必死で抱えて帰る園児バス。芋堀の時は五つ六つのジャガイモを抱えて帰ってきた年少組。でも大根はイモよりはるかに大きく苦戦している様子が目に浮かぶ。夫婦が共に働き保育園に送り迎えを続けた私には、幼稚園バスの実感がない。冬の北風の中、保育所に向かう自転車が遅々として進まない向かい風。でもそれだからこそいつも心に秘めるものがあった。いつも急がせて、よ~く心の声聞けずにゴメンね。いつの間にか手が、冷たくなっててゴメンね。必ずどこかで、お返しするよ!


あまりに 手冷たきことの 恥ずかしく    成瀬 正とし


いつもの席に その人在(おわ)す 冬ぬくし  和久井 雅子


出港の エンジンの音 冬ぬくし       佐藤 美智子
 
 


人の数だけ 晩年がある 冬の梅       角 光雄


冬ぬくし 一人の客に 出る渡船       塩田 章子


ギイィ~、ギイィ~。と櫓(ろ)がしなり舟のへさきは対岸の岸へと向かいます。寒風が吹きつける川の水面を切り裂くように、迷わず、ためらわず、ひたむきに天職のように取組む人たちの背中が冬をあたたかくしてくれます。”私が生まれてきた訳は愛しいあなたに出会うため””私が生まれてきた訳は愛しいあなたを護るため”(さだまさし「いのちの理由」)。混乱と不安の中で新しい年が巡ります。私もたった一人の困っているその人に、お役に立ちたいです。


私が生まれてきた訳は何処かの誰かを傷つけて


私生まれてきた訳は何処かの誰かに傷ついて


私が生まれてきた訳は何処かの誰かに救われて


私が生まれてきた訳は何処かの誰かを救うため    


”いのちの理由” 作詞作曲:さだまさし

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