令和3年7月10日
いきなりや 顔いっぱいに 春の富士 松村 幸一
愛読している詩人吉野弘さんの詩集「感傷旅行」に”一年生”があります。”いちねんせい!”。あふれる希望と不安、期待。本人はもとより、家族も周囲も緊張感で胸高まります。でも”一年生”は、人生劇場すべてに共通です。入学・就職、習い事、その初めの一歩。老いも若きも惜別を超えて、出港の朝。今、潮は満ちたり!
一年生
すぐ 日曜日の味をおぼえる レンキュウなんて言う言葉も ハンカチ ハナカミ
に追い回されながら―
夏休みが来る!
その前に最初の通信簿が来る 全部五でないと六でなし せめて三三五五と
散らばりたいが 一二一二の仏教渡来
「この子は ちょっとマシな子かと 思っていたが たいしたことはない
瓜(うり)の蔓(つる)に茄(なすび)よナレ」とパパ叫ぶ
夏休みに絵日記は付きもの 絵日記に登録してもらうため パパ勤めを休み
家中で人の海・人の山へ―
二学期が来る
テレビにばかりかじりついてッ 運動会が来る 千にも足らぬ万国旗が
ひるがえる子供がころべばパパママ痛い―
冬休みが来る!
雑誌で見る通り 雪の結晶は六角形 雪は子供の熱い嘆息を浴びてふと溶ける
美しいものは はかない 世界をジーンと感じるのはそんなとき―
春休み!
三寒四温が定石だが 通信簿はしつこく一歩進んで二歩下がる
CMをおぼえるようにベンキョウも というわけにゆかず 二年生になる
子は親のくり返し と思いたくもなろうが いえいえ どうして
素直に繰り返してばかりはいない 遠からず親の時代をひっくり返す
吉野 弘「感傷旅行」
註:仏教渡来の年・西暦552年が皇紀では1212年に当たる。
お遍路が 一列に行く 虹の中 渥美 清
季節が移ります。桜が列島を北上します。九州、北海道・・・それぞれに不安と混乱を抱えながら、桜に癒され励まされ”よくぞ咲いてくれた!”と賛嘆の思いを小さな花びらに寄せています。そんな春、”横浜最後の街頭紙芝居師”と言われた鷲塚隆さんの奥様・里子さんがご逝去されました。感染防止の配慮から式にはご遠慮し、ご遺骨を師匠のご実家でお迎えさせていただきました。胸に抱かせていただいたお骨は、生前のお姿のように小さく見えましたが、ズッシリ重くその存在感の大きさを痛感いたしました。女性の街頭紙芝居師でもあった里子さん。昭和32年2月9日に神奈川県から「紙芝居業者免許書」を交付されている里子さん。夫唱婦随の人生。私の目の前を昭和という時代が、駆け抜けていきました。合掌
早春の 風になびかせ 喪のショール 千々和 美佐子
春浅し 雨の匂いを 深く吸う 佐藤 洋子
ひとひらが 彗星となる 桜かな 高岡 慧
なんたって桜は嬉しい。実感できる喜怒哀楽、それだけでない目視できない背の荷物の重さも忘れます。何とかなるさ、というよりも明日がある!と気持ちを切り替えて、右の手と左の掌(てのひら)を合わせると心は空に向かって飛んでいきます。桜のひとひらが 舞う空に。
さくらさくら 彼の世の夫を 連れ出さむ 菅原 けい
胸さわぐ 夢を見た日の 桜かな 谷川 八穂子
さくら咲き 旧師に友に 逢ひたしや 斉藤 ヨシ子
春の富士 ふはりと揺るる 駿河湾 濱中 千恵