令和6年4月1日
去年今年(こぞことし) 貫く棒の 如きもの 高浜 虚子
学生時代に読んだ詩集「詩の中にめざめる日本」(岩波新書・真壁仁編)の中で衝撃的な詩に出会った。濱口國雄さんの「便所掃除」という詩だった。昭和の戦争の時代を生き延び、戦後の混乱期に国鉄(今のJR)の車掌として勤務。新人職員に割り当てられる便所清掃に悪戦苦闘する姿をリアルに、明るく表現し最後には希望あふれる言葉で長い詩は終わる。・・・便所を美しくする娘は美しい子供を産む、といった母を思い出します僕は男です。美しい妻に会えるかも知れません・・・読み終えた後、新春の風が吹き抜けたような感動に包まれた。
暖冬異変 人棲む星の 老いにけり 澤野 純子
微笑みが 微笑みを呼ぶ 寒椿 堀 ともゆき
冬の梅 言はぬは言ふに 勝るなり 古東 正子
晩学の 辞書を頼りの 冬至かな 内田 良子
おでん鍋 先づ大根に 箸を差し 山根 繁
大好きな詩人茨木のり子さん(2006年没)の「詩のこころを読む」(岩波ジュニア新書)を開くと坂田寛夫さんの「練習問題」(詩集『サッちゃん』)という詩が紹介されていた。
「ぼく」は主語です 「つよい」は述語です ぼくは つよい
ぼくは すばらしい そうじゃないからつらい
「ぼく」は主語です 「好き」は述語です 「だれそれ」は補語です
ぼくはだれそれが 好き ぼくは だれそれを 好き
どの言い方でもかまいません でもそのひとの名は 言えない
凪(な)ぎし海 富士を浮かべて 冬ぬくし 杉原 功一郎
弛(ゆる)みなく 地球はめぐり 冬至かな 手塚 扶美子
「ただいま」と 言へば夫いて 冬ぬくし 佐藤 れい子
三日坊主 承知の上の 日記買う 渋沢 渋亭
鏘然(しょうぜん)と 寒の水垢離(みずごり)ひびくなり 石田 波郷
暖冬とはいえ、最も寒気の厳しい一月。その一年の節目は老若男女それぞれ人生のスタートでもある。今では異次元の世界かもしれないが新入職員だけでなくともお茶くみ、トイレ清掃は確かにあった。今も形を変え、社会には苦役が満ちている。しかし一方仕事だけでなく、心身の鍛錬のため武術や運動、芸能などで向上を目指す寒稽古は今も知られる。その双方に共通するものはれんしゅうだ。最初は予行演習や心構え程度でも、精魂を込め真剣に続けて行く。と、回を重ね深く 更に真剣に重ねることで、れんしゅうは本寸法の練習となり修行に変わる。そして精進に昇華していく。人生の試練や悲痛、理不尽な災厄にも一つ一つ何かを伝えてくれる学びがある。これも練習!あれも練習!と今また、自身に問いかけ、前を向いて寒風の中を進み始める。自分を鼓舞しながら・・!
小づつみの 血に染まり行く 寒稽古 武原 はん
なまはげに 庇(ひさし)の雪の どどと落つ 出牛 青朗
麦の芽に 朝日が投げし 棒の影 宮木 文子
叱られて 目をつぶる猫 春隣(はるとなり) 久保田 万太郎