日本を代表する「常民研究」の中心、神奈川大学で戦時中の”戦意高揚のための紙芝居”の公開が検討されています。

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 この貴重な241巻の資料を入手した「資料研究センター」では学内の英知を集めて資料の整理に取り組み、音声化などの処理を進めて著作権などの課題処理が終了した段階で、可能であれば社会還元、次の時代に継承していく公開準備を進めるそうです。

 これらの紙芝居、戦中には300種を超えた「国策紙芝居」が発行され全国津々浦々で多くの老若男女が演じたことでしょう。地域で、学校でそして家庭で、時に戦時下のきびしく辛い時間が、一瞬でも和む瞬間だったように思うのです。でもその一方で多くは散逸し、このようにまとまっている資料は極めて貴重です。

 この日の会議にお声をかけていただき参加した私は、本物に触れてその迫力に圧倒されました。整理されたデータや貴重な現物には歴史博物館で所蔵する貴重な街頭紙芝居にも劣らない魅力を実感します。

名作「うづら」の現物も含まれています。なつかし亭も音声化のお手伝いを予定。

 昭和5年に登場した紙芝居は、まさに昭和の時代を代表する大衆文化の一つです。横浜では、故・鷲塚隆師匠が「横浜最後の街頭紙芝居師」と言われます。大きな紙芝居の影響力、メッセージ力は戦時体制下での国民意識の高揚や、生活規範の確立のために国家が中心となって強力に推進することになりました。それがこの紙芝居です。

 ですからこの241巻の紙芝居は戦闘場面や兵士の生活、そして国家が求める、残された家族の思いやあるべき姿が当然、”教育的”に描かれていますが、中には素晴らしい名作も含まれています。

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 その一つがこの作品。「うづら」(脚本:堀尾青史、画:西正世志)です。1979年に幼児教育界の重鎮、「子ども文化研究所」が童心社と復刻版を再発行しました。

 子ども文化研は故右手和子先生の活躍舞台であり、昨年は梅田佳声先生にお声をかけていただき、鷲塚師匠の紙芝居を上演した思い出の場所。右手先生はもとより、鈴木事務局長や元山さん、菊池好江先生などお世話になった方々を忘れることはありません。本当に、今回の頂いたご縁の不思議さを思います。

「うづら」との出会いは劇的です。私自身、思い出深い作品です

 この復刻版の「うづら」は横浜市図書館でも所蔵しています。10年近く前に「都筑図書館」児童コーナーでこの復刻版を見つけた私は、当時紙芝居の「武者修行中」でした。紙芝居の魅力にのめりこみ多くの紙芝居を、見つけ次第読み漁り、どこでも演じて、”ムチャな修行”をしていました。しかし、この紙芝居は私には読むことができなかったのです。不思議な体験です。作品が重いのです。私にはまだ読めない!と書架に返した鮮烈な記憶があります。

 今考えれば、私にとって通るべき道。きっと紙芝居に向き合う多くの方々には同様な経験がおありだろうと思いますが、当時の重く苦しい実感を忘れません。読み手が成長し、深く成熟しなければ読めない作品があるのです。不思議な体験でした。それだけに今、この作品を読ませていただく機会をいただきましたこと、本当に心の深いところで感謝と喜びを感じています。

 音声化作業は、これからスタートすることとなりそうですが、どれだけお役にたてるかわかりません。しかし多くの先輩や師匠、そして人知れずこうした貴重資料を残してくださった方々、そして戦災や時間の経過によって亡くなられた関係者の方々に感謝を深くしながら取り組ませていただきます。ありがとうございます。