令和6年10月10日
世の夏や 湖水にうかむ 浪の上 芭 蕉
六十年 卒業写真と 逢えし夏(財津哲夫)。毎年、夏という季節を前になすべき作業があった。ルーチンワークのような、義務のような使命感。それをしないと夏ばかりでなく、すべてがやってこなくなるような脅迫感があった。でも今年はそれをヤメた。毎年続けてきた梅干し作りだった。二年続けての梅の不作と手抜きをしない作業でも失敗が重なり心が旅に出てしまった。巷間言われる夏の異常な暑さ、と決めつけることも”スッパイは成功の母”と梅干にしゃれてみるのも納得がいかず梅酒も梅干しも休業の夏がやって来た。
二月、三月花盛り ウグイス鳴いた春の日の
楽しい時も 夢のうち
五月、六月実がなれば 枝からふるい落とされて
近所の街へ運ばれて 何升何合(なんしょうなんごう)量り売り
洗われ樽に詰められて 重たい石を載せられて
塩につけられ辛くなり シソに染まって赤くなり
七月、八月暑い頃 三日三晩の土用干し
思えばつらいことばかり それも世のため人のため
明治43年(1910年)から小学3年向け尋常小学読本巻五に掲載されたとされる「うめぼしのうた」
当時の曲はなく歌詞が残るが自在に替え歌が作られて歌われているという。しかし、歌詞を見ていると不思議に梅干しが自身の人生に重なってくるように思えてスッパイ涙が出てくる。自分が紙芝居で取り組むとしたらどうする?と原作に勝手に歌詞を書き足し、言葉を補足して毎年の梅干の代わりに「うめぼしの歌」を作ってみた。
シワはよっても若い気で 小さい君らの仲間入り
海にも山にも 運動会にもついて行く
年数立っても保存食 冷暗所の床下でいくつになっても
笑みを忘れず腰低く 九月、十月秋の風 季節の変化に流されず
雨降り風間(かざま)もなんのその
腰の日の丸お弁当 主役を支える力持ち 目立たず側で支えます
時には嵐が吹こうとも 人生峠を越えていく
いついつまでも どこまでも
あなたと一緒 スッパイ人生共にする!
少年の 夢乗せ出航 雲の峰 秋田 まき
梅の実一つにも人生がある、と思う。めぐり逢いそしてつながっていく。それぞれが成長していく。今年の夏も一里塚だ、と思いいたる。この先に何が現れるのか?不安よりも興味と関心、不安や混乱に心を折られることなく踏み出す。そう思うと風が背中を押してくれる。強くやさしい風!春の風は、舞台で例えると「ワンベル(1ベル)」かもしれないが、夏の風は「ツウベル(2ベル)」だ。舞台の開演5分前のベルから開演直前を教えてくれる。ブザー音であったり、鐘の音であったり時に応じて、耳に響いてくる。サア、港を出でよ!出航の時来たれり!
氷川丸 錨をあげよ 夏来る 永井 友二郎
キャンパスの 余白を飾る 夏の雲 菊地 章子